おそらく人間の本能の中には「自分がどこからやってきたのか」を知りたいという願望もあるのでしょう。日本人に限らず、家系図や自分史づくりに興味を持つ人々は、ヨーロッパにも沢山います。

 

■イギリスの家系図事情

イギリスは家系図（Family Tree）づくりに熱心な国の一つです。1970年代以降に先祖調査者は大きく増え始め、ブリテン島では100万人もの人々が先祖についての調査を行っています。先祖調査・家系図づくりを趣味とする人たち、移民として国外に出た人々の子孫たちがそれらの中心です。

 

●どうして先祖調査や家系図づくりがはやるのか

イギリスで家系図調査がしやすかった理由が大きく２つあります。

1つ目は、古くから個人の姓名の記録が大量に保存されていたこと。遺書、課税や投票の台帳、教会の戸籍記録、身分登録、1801年以降の国政調査、市民権許可証記録、商工人名録・住所録などです。

2つ目は、王侯貴族の血統管理のための系図づくりをしていた下地があったこと。そこで方法論が育まれました。

加えて、末日聖徒イエス・キリスト教会（モルモン教会）の活動、家族史協会の設立など情報が整備され、インターネットの発展でデータの共有が容易になりました。巡礼にも似た自分探しの旅といった「先祖ツーリズム」など観光産業も生まれたのです。

さらに、2004年から放送開始されたＢＢＣ（英国放送協会）制作のドキュメンタリー『Who do you think you are? （あなたは誰だと思っていますか？）』が先祖調査ブームの後押しをしました。イギリスの著名人が自分の祖先を辿りながら、先祖たちが直面した戦争、移民経験などの苦労を知り、意外なルーツを発見する様子が感動を呼び、人気番組となったのです。

 

●イギリス先祖調査のゆくえ

最近ではインターネットを介したDNA鑑定による先祖調査、ツーリズム産業の一貫としての「家族史養成コース」、地方での公文書センターの開設など、イギリスの家系図、先祖調査ブームはまだまだ続きます。

 

■フランスの場合

約600万人のフランス人は、自分の家系について関心を持っているのだそうです。今や家系図や先祖調査のための情報を共有するサイトは、アメリカ発祥のサイトなどを含めて1500以上もあり、家系図市場は活発です。

 

■ドイツの場合

2007年8月に、Verwandt（フェアヴァント）というサービスが誕生しました。アメリカの家系図サイトGeni（ジーニー）そっくりのサイトです。このサイトは5ヶ月で家系図は100万件、系図登録者が950万件というサイトに急成長。多言語対応で国内外を問わず、1000万件の資料を持つと言われる当サイトの人気はドイツ国民の家系図への関心の高さを示します。

 

■イスラエルの場合

この国でも家系図づくりは趣味として定着しています。2005年設立のイスラエル企業・MyHeritageのサイトの系図登録者が1億8000万人分だと聞けば、その熱心さがご理解いただけるでしょう。

 

紙の記録を辿るアナログ調査だった家系図づくりは、今インターネットの普及によって国境を越え、サイト間での情報の行き来まで可能になりました。ヨーロッパの家系図づくりは「伝統」から「知的な趣味」として定着しつつあります。